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【設計者向け情報】芝地の常緑化の気温エリア別3つの方法

芝地の常緑化は、関係者の永年の夢でしたが、近年、品種・工法開発、技術・技能開発が進み、次第に身近になりつつあります。南北に長い我が国では、主として気温の関係から、地域別に3種類の方法で取り組まれています。

ここでは、主にランドスケープ設計者様が、芝地の常緑化を考える際の参考となることを目的に、末尾の参考文献、各種情報に加え、当社の環境・バイオシステム研究室及び、当社直営中関ゴルフ&コミュニティ倶楽部でのメンテナンス技術、芝品種開発、芝生理研究等の知見、経験を含めて、常緑芝生について概説します。

1. 【常緑化方法その1】WOS(ウインターオーバーシード)による常緑化

地区

温量指数(註1)100℃前後以上の第Ⅳ地区(関東~中部平野部)以西
(「温量指数」は、生態学的にも合理的裏づけがあり、芝草管理上も最も有効な指数です。)

概要

夏芝バミューダグラス(ほふく型暖地型芝/ティフトン他/春~秋生長旺盛・冬葉枯れ)を基盤植生として、秋にその上から、冬芝(株立ち寒地型芝/ペレニアルライグラス他/冬期緑葉・夏枯れ)を播種し、冬の緑葉を維持します。
春には、暑さに弱い寒地型芝を枯らし、かわりに基盤のバミューダグラス(暖地型芝)を芽出し・再生させます。
これを毎年繰り返すことで、常緑芝地を実現する方法です。

WOSサイクル図解(図ー1)

※詳しくは(註2)参照

毎年、このサイクル①~④の作業を実施することが必要です。(図ー3参照)

留意点

●春、秋の芝種の切り替え作業は、時機選択、作業方法・フローなどを含め、経験、専門知識・技能、専門管理機器を有した専門家が不可欠です。

季節ごとの主な作業は、

春~

 

暖地型芝による基盤ターフ造成・管理
暖地型芝の生育管理
秋~冬 寒地型芝の播種・冬芝面づくり(9~10月)
①暖地型芝生育抑制作業
②播種前の更新作業
③寒地型芝の播種作業
④目砂摺り込み
⑤発芽・養生管理・・・・
⑥寒地型芝の生育・管理(冬期)
春~夏 トランジッション(4~6月)
①下準備(5週間前後前から)=冬芝を徐々に退化させる~施肥調整・刈高低下
②基盤芝(暖地型芝バミューダグラス)の休眠明け(夜間温度15℃から、30%程度夏芝が緑度を回復)を待ち、施肥再開・刈高アップ(20~40㎜)暖地型芝の生育管理
寒地型芝の管理及び基盤芝の保護(休眠根・茎の健全性)

●なお、WOSに最も適した寒地型芝ペレニアルライグラスは、冬(11月下旬/10℃以下~3月中旬/10℃前後)には、緑は保つものの、ほとんど成長を止め、真冬には、霜害等も含め色落ちします。この間は、損傷の急な回復は困難で、使用方法、養生・管理などの工夫が必要となります。10℃以上になると、生長が再スタートします。

●暖地型芝(バミューダグラス、日本芝他)は、品種によっても違いはありますが、11~3月は生長停滞期~休眠期となるため、損傷の急回復は困難ですので、各品種の特徴を活かしながら、擦り切れや踏圧・固結被害を考慮し、上手な使い方、養生プランが望まれます。

2.【常緑化方法その2】寒地型芝による常緑化

地区

温量指数(註1)85℃(~100℃)以下の第Ⅱ地区(~第Ⅲ地区)(北関東以北)

概要

寒地型芝品種単独または、混播(三種混合など)。ロールターフもある。
一般に使われている芝種は、ケンタッキーブルーグラス、トールフェスク、ペレニアルライグラス、クリーピングベントなどです。寒地型芝草は、C3型光合成植物であり、光合成機構が、暖地型芝草(C4型)とは異なり、熱暑、多湿に弱いことから、冷涼地向きです。
最近は、寒地型芝の各芝品種とも、新品種開発が盛んで、検討時には、種苗メーカーの情報を活用することが望ましいです。

留意点

●寒地型芝(C3型植物)は、高温多湿の条件を嫌い、耐暑性が強いとは言えません。
生育適温は、15~25℃(最低5℃、最高32℃)で、22℃以上が続くと、夏枯れリスクは高くなり、5℃を下回ると生長はとまり、退色しますが、0℃以下でも、株は枯れません。
ブルーグラス類では、耐暑性がある程度改善された品種も発表されています。

●夏期には、C3型植物であるため、強光により、生理障害を起こし、茎葉の生長も抑制され、損傷からの回復もできず、枯死に到るリスクも高いと言えます。

●一般的に、暖地型芝に比し、耐乾性、耐病性も低く、施肥管理や散水、刈込、通風、擦り切れ対策、養生など、状況に応じ、こまめな作業を必要とし、特に寒い地域以外では、永年の芝地管理には、高い専門知識、経験・技能、及び管理機器がないと難しさがあると言われています。

●寒地型芝は、暖地型芝と違い、生長停滞期が1年の中で2度(夏期は概ね7~9月、冬期は概ね1~4月)あり、この間は茎葉の伸びは抑制され、損傷の回復が難しくなります。従って、生育状況、気象状況を見ながら、使い方、養生期間・方法を、調整することが望ましいと言えます。
また、例えば、WOS法によく用いられるペレニアルグラスでは、11月末~3月中旬の間は緑色は保ちますが、殆ど成長しません。また、霜、厳寒で、色落ちすることもあります。夏は、7月~9月上旬は、殆ど成長せず、25℃以上では枯死が始まりやすくなります。

3.【常緑化方法その3】暖地型芝による常緑化

地区

温量指数(註1)100℃以上の温暖地(第Ⅳ地区以西)(関東・中部平野部以西)

概要

暖地型芝の品種開発により、冬期休眠時の葉枯れを防止し、緑葉を維持する方法です。
最近、緑葉期間が長いという新しい品種も複数開発されています。

暖地型芝は、4型光合成植物です。
従って、夏は、高温・強光に強く、旺盛な生長を示しますが、冬期は、葉枯れ(休眠?)します。
ゾイシア属芝草(ノシバ、コウライシバ他)では、一般的には光強度に関係なく、11月頃より光合成活性が低下しますが、葉のクロロフィル蛍光の低下には、自生系統間でも大きい違いがあり、低温での光合成効率改善の余地は大きく、育種的改良可能性があることが明らかにされています。なお、コウライシバ系であるスクラムは、その可能性を実証したものと言えます。

現在のところ、冬期(低温)でも緑度を保ち、光合成効率が、緑度保持限界と言える0.35を越える品種は、バイオテクノロジーを駆使して開発されたスクラムのみですが、0.3前後の品種もあり、地域選択、土壌改良・メンテナンスの工夫により、常緑系は、実現されています。

留意点

●暖地型芝草は、一般に11月~3月は生長停滞的に入り、強い踏圧、擦り切れストレスからの地上部の損傷の回復が難しくなってゆき、特に12月上旬~3月上旬は休眠期に入り、緑度を失い、葉枯れ状態となります。

●スクラムのように、冬期も緑度を保つ品種においても、冬期は生長停滞期にあることから、継続した歩行等のストレス、損傷の蓄積が限界を越えると、地上部の緑度は回復しにくいため、使い方・養生方法等で工夫を要します。(スクラムは、暖地型芝の中でも、低温光合成効率の低下が比較的少なく、踏圧等のストレスが少ない状態では、本州太平洋岸(温量指数100℃以上)では、冬期も緑色を保つことが確認されています。)

植物は、光合成プロセスの違いで、C、C、CAM型に分けられます。
■基本型とも言える「C」光合成植物は、寒地型芝草やイネ・コムギ等の主要作物などで、
暖地型芝は、「C」光合成植物です。
■C光合成植物は、コウライ芝(コウシュンシバ)、ノシバ、バミューダグラスなどの暖地型芝や、トウモロコシ、亜熱帯性のイネ科植物等で、C光合成植物にターボチャージャーがついたような機構で、高温(18℃~49℃)強光下でも、活発に光合成(光エネルギーで、水とCOから糖を合成)を行う反面、10℃前後からは、急速な光合成効率の低下を示します。
■CAM型光合成植物は、サボテン、セダムなど多肉植物で見られ、C光合成に似た光合成炭素代謝経路を持つ乾燥適応型と言えます。しかしこれらのCAM型光合成植物の気孔は、高温の昼間に閉じて、水分の蒸散を防ぎ、夕方から夜間に開くため、水分の蒸散(気化熱)による冷却効果(除熱効果)は期待しにくく、省エネやクールスポット形成、ヒートアイランド防止には、不向きです。

●Zoysia属芝(ノシバ・コウライシバ他)は、葉身にガラス質(SiO2)の粒々(プラントオパール)を生成します。また、リグニン含有量も多いのが特徴で、このため、擦り切れ耐性と、病害耐性が強く、乾燥などの外的ストレスにも強く、管理も比較的容易です。

●スクラムやビクトールは、葉部に、アントシアニンの蓄積がなく、紅葉せず、出穂時の暗赤紫色にならないことも、緑葉期間の長さ、美しさに寄与しています。

試験圃場におけるスクラム芝の状態(撮影日2019年1月5日)

(註)「常緑化」については、プロサッカーグラウンドなど、特別な設備や格別のメンテナンス・体制(頻繁な張り替えを含む)などのケースを除いた、一般的な施設・広場等の場合とした。

(註)なお、地球温暖化・気候変動、ヒートアイランド等も、今後は検討条件に加える必要がある。

註1 方法選択のための温量指数(暖かさの指数)について

 

■温量指数(温かさの指数/warmth index)とは

 

1945年京都大学農学部 吉良竜夫博士の提案した植生気候区分で、日本を含む東アジアの森林帯の境界とそれぞれ特定の値で、かなり良く対応し、生態学的な合理性にも裏打ちされている。

 

温量指数は、月平均温度から5℃を差し引いた正の値の年間合計(積算)温度で、植物生育の閾値(月平均5℃を越える月)を基準とした指標となっている。

 

芝品種・系統の基準としても有効で、
【1】温量指数100℃以上の暖地(第Ⅳ地区以西)
【2】100~85℃の中間地域(第Ⅲ地区)
【3】85℃未満の寒冷地(第Ⅱ地区以北)
に分けられる。(気象庁データより算出)

図ー2 

※「常緑」としての利用適応地域ではない。WOSとしての利用は考慮せず、あくまで単独使用時の目安。
※近年、地球温暖化を含む気象変動が激しく、特に夏期の高温化には、格別の注意を要する。

 

註2 暖地型芝と寒地型芝の生長曲線とWOS(ウインターオーバーシード)について

 

■暖地型芝と寒地型芝の生長曲線とWOS(ウインターオーバーシード)

一般的なWOSの芝種別生長曲線

図ー3 一般的なWOSの芝種別生長曲線

緑色の曲線:暖地型芝の生長曲線
青色の曲線:寒地型芝の生長曲線
グラフ下の各棒表示:ウインターオーバーシードでの夏芝・冬芝の代表的な様子説明

 

このように、暖地型芝は春から夏にかけて長い生長期があり、寒地型芝は春と秋の2回短い生長期があります。ウインターオーバーシードでは、毎年、前述1の作業を繰り返し行うことで芝地を維持します。これに対し、前述3の方法は、暖地型芝の新品種による新しい芝地の常緑化の方法です。

それぞれの特徴、留意点については、前述の各方法をご覧ください。

3. まとめと新型コロナの先のMIRAI2050への希望

以上、主として気温の関係から地域別に、3種類の芝地の常緑化の方法について、ご紹介致しました。

子どもたちが裸足で遊び回れるやさしくケガの少ない校庭

日本においては平成29年の都市公園法の改正により公園整備への収益活用等が可能となり、防災、地域の官民さまざまな立場を越えた協働も視野に、新しいコンセプトでの公園整備等が工夫され、実現し始めています。

人が集まる場所としての癒し効果グリーンインフラとしての芝地の活用など、総合的に生活場の質(QOL)を上げることにも、ようやく注目がされるようになってきました。
限られた面積の国土の中で、図書館、美術館、官公庁、公園、学校等公的な場所のみならず、民間商業施設、ホテルや結婚式場、リゾート、工場(ファクトリーパーク)など、地域の中にある広場を上手に活用することも望まれます。

また忘れてはならないのは、私たち人が生活の中で、消費の量ではなく質を上げることをもう少し大切にし、自然と共生していく方法を様々な視点から考え続けることだと思います。
そんな時、子供からお年寄りまでがご近所に出かけ、できれば日本芝の、生命の息吹き、優しさを感じさせる天然の芝地で、広い空と芝地の包容力・開放感を感じながら、のびのびと新しい発想を膨らませる時間を過ごすことこそ、希望の1つだと私たちは思っています。

新型コロナの影響による生活様式の変化、また気候変動等による災害時の可変的防災拠点の観点でも、今後ますます、芝地など広い空間を知恵を絞って上手に設計、活用して、健康・体力増進、免疫力強化、開放的空間利用によるやすらぎと活力といった、身近な生活環境の質を上げていくことが大切になってくると思います。

また、DX、CXなどの環境革命に対応した生き物バランスを、上質な芝地を含む空間の中で、創造してゆくことが一層求められます。

そしてそんな緑の芝地を、WOS(ウインターオーバーシード)などの多額の予算や専門家・人手などが必要な方法が選択できない場合でも、今回ご紹介したような方法で芝地の常緑化をめざすことが可能となってきました。
3つ目の方法の中でご紹介した、暖地型芝の「スクラム」は、愛・地球博(愛知万博)で、大庭園や日本政府館の屋上緑化にご利用いただいた、常緑性コウライ芝「コプロス(Coprosperity=共生共栄)」という親品種の特性を活かしさらに改良された子世代の品種です。
バイオテクノロジーを駆使し、細胞レベルからの変異処理と、独自の母材系の交配から生まれた「スクラム」は、多くの校庭緑化や、メモリアル広場、イベント広場などで、実績があり、他と一味も二味も違う芝です。
だからこそ、芝類では、世界で唯一、日・米・豪3か国特許が登録されたのです。

また、芝地は生き物ですので、気象条件の影響をどうしても受けることとなります。従って、地球温暖化・気候変動、ヒートアイランド等も、今後は検討条件に加える必要も出てきました。
常緑化芝地を設計段階でご検討される際は、詳しくは、ぜひお気軽にご相談ください。

多くの志ある設計者の方々や日々地道にメンテナンスされる方々、芝地の上での多くの笑顔と共に、都市部のみならず日本各地で、常緑化した芝地の実現による、生活環境の質(Quality Of Life)の向上に、私たちも微力ながら貢献してゆければと、願っています。
今後も定期的に、芝生・屋上除熱に関する基礎的な情報の提供に努めてまいります。ご期待ください。お付き合い有難うございました。

5. 参考文献

●東京都環境局、芝生の種類

●寒地型及び暖地型芝草の生理・生態的特性、佐藤節郎(九州農業試験場)、芝草研究、23(2)、29-41(1995)
●公共緑地の芝生、北村文雄監修:公共緑地の芝生(アメニティターフめざして)、編集(近藤三雄、伊藤英昌、高遠宏)、ソフトサイエンス社(1994)
●(財)都市緑化機構、「校庭の芝生化Q&A集」(2010年度版)
●静岡県(芝草研究所)、「バミューダグラスによる園庭・校庭の芝生管理マニュアル」(WOS)
●鈴木憲美(日本体育・学校健康センター)、セミナー、競技場における芝生管理、芝草研究、23(1)、51-57(1994)
●「芝草と品種」浅野義人、青木孝一、ソフトサイエンス社(平成10年)
●施肥の原理・原則、JGIAミニセミナー、東洋グリーン、木村氏(2018)
●青山高義、地理学評論59(Ser.A)-10、625-627(1986)
●北村文雄、芝生用植物の種類と特性、「新訂芝生と緑化」、日本芝草学会、ソフトサイエンス社(1986)
●芝草の生育環境と管理、「芝草・芝地ハンドブック」(北村文雄ほか編)、博友社(1997)
●大川原良治、クロロフィル蛍光から見たゾイシア属芝草の光合成と低温感受性に関する研究、東北大学機関リボジトリTOUR、566号(1996)
●NHKEテレ、”ミクロワールド”、www2.nhk.or.jp>rika>micro>プラントオパール

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